旅行記

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楽園を目指して~ハワイ建築旅行記 松田 まり子

「ハワイは楽園。まるで天国だよ。」
と天国に行ったことなんてない人から言われた。
2012年8月初旬、旅立ちの日の沖縄は、台風の真っただ中であった。豪雨の中、楽園行きの飛行機は、強風警報のため、3度も変更された。那覇空港の国際線についたなりアジア系民族の騒動が起き息もできないような状況であった。並んでいる横から押し合い割り込みし合いする彼らには、ため息すら出なかった。
今回は、韓国からの任川からの乗り継ぎでホノルルに向かうので、雲の上での時間は約11時間半、飛行機大好きな私にはすでに楽園だった。

■ホノルル空港
さて、ホノルル空港に到着し、入国審査の前、エスカレーターを降りようとしたときに美しい日差しが舞い込んできた。
ショーウィンドウのライトではなく、太陽の日差しである。

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思わず写真を撮った瞬間、警備員の人にここからは写真撮影禁止だと告げられる。
後にこの空港がハワイの建築家オシポフの設計だと気付く。

■ハワイじかん
空港には、親戚のヨシコおばさんが迎えに来てくれた。
私は初めてお会いするのだが、いつもはロスに在住していて二年に一度、ハワイで旦那様と、仲のいい家族を呼んで、3部屋あるホテルで二週間過ごすという生活を送っている。
本当なら私も旦那様と来たかったのだが、急なこともあって今回は父との旅行となった。
沖縄県とハワイ州は「クリーンエネルギー開発と展開に関する協定」を締結しているということもあって、ハワイ建築視察には良い機会だということもあって背中を押された結果でもあった。
そして、宿泊するのはマリオットホテルである。
沖縄のマリオットホテルは、去年クリスマスを過ごしてとても優雅に過ごせたのを覚えていたので、楽しみにしていた。
実際の部屋は、想像以上で長期滞在用の部屋でキッチンもランドリーも完備していて、3つのベッドルームにはそれぞれ、バストイレシャワーが併設していた。
バルコニーも各部屋についていて、そこにはテーブルとイスがありプールが見渡せる。奥にはビーチが見える。子供たちがきゃっきゃっとはしゃいでいる声すら素敵なBGMに聞こえる。
荷物を置いたところで、おばさんの提案でこれから滞在用の食料等を買い出しに行くことになった。いわれるままにたどり着いた先が倉庫のようなスーパーマーケットであった。

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あまりにダイナミックすぎて開いた口がふさがらない。
天井を見上げると、照明と昼光利用のための開口が交互に配されている。
これだけのボリュームだと、エネルギーの量もきっと膨大な数字であろう。
と、気が付くと周りのみんなは、ホットドッグをほおばっている。確かにLサイズの飲み物付きで1.5ドルは安い。
店内をカートで歩き回り、キャッシュコーナーではすでに買い物を終えた、カートいっぱいのおばを発見する。普通のスーパーのようにビニールに詰めていては、日が暮れてしまう量だ。
あまりの量に、これらの商品をどのように運ぶのか、心配してしまう。
さて、この答えはこうだ。
買ったものは、レジを通したあと再びカートに戻し、そのまま車のトランクまではこび、そのまま重ねて積む。そしてホテルに着くと、駐車場にちゃんと部屋まで運ぶカートが用意されている。なんともダイナミックで合理的な流れである。
昨夜は、エアコンの効きすぎた部屋でがちがち震えながら眠った。
途中起きて、長そでとズボンも重ね、布団に丸まる。
まさか、ハワイがこんなに寒いところだとは思わなかった。
薄手のダウンジャケットを持ってくるべきだったと後悔する。

■朝の散歩

次の日は、朝6時ピッタリに目が覚めた。
隣にも、同じように父も目が覚めていたので、朝の散歩にいくことになった。
コオリナマリオットの隣は、世界のディズニーのホテルがある。ビーチに沿ってあるくとたどり着く。
もちろん行かないはずがない。

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今日も晴れ。
部屋を出て外の風に当たった瞬間が一番気持ちいい。
なぜ外はこんなに気持ちいいのに、建物の中はあんなにも寒くて過ごしにくいのだろう。
民族的なものらしいが、私はやはり沖縄生まれ。むしろ暑い方が好きだ。
鳥の声が騒がしく聞こえてくる。
ここハワイでは、なぜだか飛んでいる鳥よりも歩いている鳥が多い気がする。

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自然色を統一させているのは、マリオットもディズニーも同じであったがディズニーの方がやはり、非日常性を大切にしているデザインとなっていた。
ビーチサイドを楽しむパラソル付のベッドで眠るのは、気持ちよさそうだ。

波が強く、サメが出没するということで、ビーチを囲む岩礁を配している。
静かな海と荒々しい海のギャップがまた美しい。

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散歩帰りのビーチサイドのテラスでの朝食が、この滞在中のなかで私にとって一番美味しい食事だった。

■フランク・ロイド・ライト
さて、ハワイにもフランク・ロイド・ライトの作品があるのは、ご存知ですか。
ハワイのメインアイランドであるオアフ島から飛行機で35分のマウイ島にある。
ハワイアンエアラインを利用することにした。

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島に到着して、レンタカーを借りしばらく走らせていくと、道の向こうにピンクの丸い建物がうっすら見えてきた。

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わかりにくい地図を置いて、ひたすら建物を目指す。
やっと、ゲートまでたどり着いてもそこから先がまた長い。
豪邸とは、こういうものなのかと改めてスケールの大きさに驚く。

ピンク色の外壁とあって、かなりのインパクトであろうと思っていたが、なんともこの場所に馴染む色であった。

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あとで写真をふりかえってみると、このピンク色の葉を持つ植物が生えている。

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円形の外壁やテラスは、このパノラマに映える。
日本風の庭園とも、うまく融合されていて心地がいい。
今までの古い建築様式をとっぱらったという近代建築。
白くて四角いだけじゃない、インターナショナルスタイルともよばれていた近代建築。
その三大巨匠、ここに在り、とライトの理念が大胆に残されていた。

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■ウラジミール・オシポフ
ハワイの建築家、ウラジミール・オシポフ(Vladimir Ossipoff)を知っていますか?
ロシアで生まれ、日本で幼少時代を過ごした彼は、その後ハワイで多くの作品を残す。
代表作品として、ホノルル空港、IBMビルなどがあるのだが、私が着目したところは、なんと彼の設計した家には、エアコンがない、というところだった。
エアコンがなくても涼しい家を約60年も前にもうすでにハワイで設計していた。
エアコンの寒さで悩ませている私にとっては、神のような存在に思える。

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彼の哲学は、1.風を読む 2.光を操る 3.地球を守る、である。
ぜひとも、そのエアコンのない家を見学したかったのだが、あいにく旅行中で外からの見学も不可という。とても残念では、あったけどここでその住宅について紹介する。

Goodsill Houseでは、外と中の境界を極限までなくしていて中庭とリビングが一体化している。また庇を長くだして、その下部はハワイでいう「ラナイ」という戸外リビングを設けている。沖縄のアマハジと同じ原理である。
Lilijestrand Houseは、ダイアモンドヘッドからワイキキの街並みまでの絶景を取り入れた横長い住宅である。リビングから絶景に向けて外に行くにつれて天井が低くなっている。窓際では、座って景色を楽しんでほしいという意図だそうだが、風の原理や強い日射の影響を考えても納得がいく。

ホノルル空港にも彼の哲学が残っている。

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開放廊下では、中庭の緑で冷やされた風を外に誘導する。
廊下や中庭では、気持ちよさそうにベンチで眠る人たちをみかけることができた。

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別の日に見学しにいったハワイの最先端住宅は、高気密高断熱住宅で、屋根には太陽熱給湯機、太陽光パネルが設置され、電力モニターが取り付けられていた。
家の前には、テーブルとイスが置かれてあったが、こんな快適な空気の中、誰も座っている人はいなかった。

彼が、もし今のハワイの省エネ創エネ住宅のプロジェクトを担当していたら、全く違うものができあがっていたのではないだろうか。

■これからの楽園
そして、これは現在の沖縄でもいえることである。
沖縄の気候の素晴らしさをもう一度見直すときだと思う。
私たちは、とても恵まれている。
暑いといっても、砂漠ほどではない。
寒いといっても、凍死するほどでもない。
暑さには、平均風速5mという沖縄の風を利用するといい。
風速1mで体感温度は1度さがるというのだから、たとえ32度の気温であっても27度に感じる空間ができるはずだ。

寒さには、一年中降り注ぐ沖縄の太陽を利用すればいい。
太陽が上がらない日は一日たりともない。
くもりであっても熱は大地まで伝導する。

光と風をうまく利用して、地球を守る。

震災後、多くの人々が沖縄に移住してきたという。
それは、なぜか。海が好きだからでも、親戚がいるからだけでもない。
地球の恵みを十分に受け取れる場所だからである。
つまり、それが楽園なのではないか。
楽園は、青い鳥のように私のそばにあった。
(松田まり子)